梓弓

第40回 偽装難民と無法国家

些か旧聞に属するが、十一月二十五日の「産経」の川口市クルド人問題に関する記事は素晴らしいスクープだつた。法務省の入国管理局(現・出入国在留管理庁)が二十年前に現地調査を行つた結果、来日クルド人の多くが「出稼ぎ」目的であるといふ報告書をまとめてゐたのである。しかし、日本弁護士連合会が例によつて「人権侵害」と問題視し、法相に宛てて「警告書」を提出したことから、その報告書は表に出なかつた。調べてみれば、これは第三次小泉改造内閣の時であり、法相は竹中平蔵、副大臣は菅義偉と山崎力、大臣政務官が桜井郁三と上川陽子であり、さもありなんといふ顔ぶれだ。

「産経」はこの記事の一年以上前から「『移民』と日本人」といふ特集記事を断続的に掲載してゐて、この慧眼と見識は大いに称賛されるべきである(一連の記事を加筆修正して纏めた『「移民」と日本人』が年明けに上梓されてゐる)。

「出稼ぎ」が示してゐるのは多くのクルド人たちが「偽装難民」であることだ。記事によれば、トルコ国籍の難民申請者はこの二十年間に延べ一万二千二百八十七名に上るが、難民認定されたのはたつたの四人なのである(「四人」は誤記にあらず)。そして、今回の一連の調査結果で最も驚いたことは、秋冬のトルコの農閑期に難民申請が増へ、そのうち一定数は翌年夏までに農繁期のために帰国し、それを繰り返してゐることだ。そんな「難民」があらうか。日本も舐められたものである。

コルクット・ギュンゲン駐日トルコ大使も、彼らが「違法に滞在し、難民認定制度を悪用している」と認識してをり、難民申請とトルコ政府批判はセットであり、それは「PKK(クルド労働者党・テロ組織)の利益となり、彼らはこの手法を欧州諸国でも使つている」と語る。そこまで分かつてゐるのなら何とかして欲しいものだが、「クルド人が日本に住みたいと選択することを止めることはできない」などとも言つてゐるので、さほど期待できさうにない。

さうであれば、不法滞在者の管理に失敗した政府が、国民を守るために自ら責任を全うするほかはないであらう。然るに、ほとんどのマスメディアはクルド人問題に沈黙し、女子中学生が暴行されても県警が詳細な発表を避け、メディアも報じない。国会議員も動かない。「外国人ヘイト」だと非難されるのを恐れてゐるのだらう。我が国はいつから無法国家と化したのか。

「SDGS」だの「多様性」だの「文化共生」だのといつたおよそ観念的な言葉を前に思考停止するうちに足許を掬はれてゐるのが欧米諸国である。そして、それを他山の石として学ばぬ国に「持続的発展」はあり得ない。(令和七年二月号)

吉田好克

吉田好克について 吉田好克は、神道・宗教・日本思想・歴史・政治・社会について、長年にわたり研究・教育・執筆を続ける論者です。 その関心の中心にあるのは、個々の時事問題そのものではありません。 日本とは何か。 日本人はいかに生きるべきか。 歴史や伝統を、現代にどう受け継いでいくのか。 そうした根源的な問いを、宗教、思想、歴史、社会のさまざまな角度から考え続けています。 論考では、福田恆存、江藤淳をはじめとする先人の思想や、国内外の文献を幅広く参照しながら、現代社会で当然のように語られている価値観や言説を改めて問い直します。 その姿勢は、特定のイデオロギーから現実を説明するのではなく、歴史、伝統、人間の営みという現実から、思想や制度を見つめ直すことにあります。 連続論考「蟷螂の斧」では、外国人労働者問題、戦後日本とキリスト教、原爆忌と平和思想、安全保障、靖国神社、保守思想、政治家論など、現代日本が直面する問題を幅広く取り上げています。 「蟷螂の斧」という名の通り、たとえ小さな力であっても、疑問を抱いた問題には自らの言葉で向き合う。 その文章には一貫して、日本の歴史と文化を次代へどうつなぐのかという問題意識があります。 本サイト「吉田好克.jp」では、「蟷螂の斧」をはじめ、これまでに執筆された論文、評論、寄稿、講義資料などを整理し、吉田好克の知的成果をデジタルアーカイブとして公開していきます。

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