梓弓

第25回 雑駁にして杜撰な法律

天下の悪法「LGBT法」が成立してしまつたが、これについて再論したいことがある。

一つには、この法律は「性的指向」と「性自認」を一括りにした雑駁なものであるが、そのことは何故かあまり議論にならなかつた。LGBは化粧室や温泉では自分の性に従ふから大きな問題にはならない。前三者とTとは全く別の問題なのだ。

Tは少し前まで「性同一性障害」といふ病名で呼ばれ、本当に性転換を望む場合には平成十五年制定の「特例法」により、二人以上の医師の認定と「性別適合手術」(生殖腺の除去と近似した外性器の形成)が必要となつた。究極のTとはこのやうな人たちである。この法令を日本学術会議が廃止するやうに動いてゐることは知つてゐるが、このやうな議論もさつぱり聞こえて来なかつた。この法令とその遵守義務が広く共有されれば、「女性スペース」に男性器をぶら下げた「自認女」が堂々と侵入するといふやうなことはある程度抑止されるのではなからうか。だが、小欄は性転換手術を奨励してゐるわけではない。

Sex Change Regretと言ふ米国のネットサイトがある。その主宰者ウォルト・へイヤーは、自らの後悔を踏まえ、性自認に悩む者はたいてい幼少期の精神的・肉体的・性的虐待などが理由だから多数が性転換手術後に後悔してゐる現実があり、無責任なホルモン治療や手術は「現代最大の医療詐欺」だと言ふ(『正論』昨年五月号)。さらに「民主党なくしてLGBTは存在しない」との名言も吐いてゐる。右のやうな知見は今後もつと広く知られるべきであらう。

次に、三月号でも紹介した吉源平(ギル・ウオンピョン)他五名の共著『同性愛は生まれつきか? 同性愛の誘発要因に関する科学的研究』(22世紀アート、二〇二〇年)における、「同性愛は環境などの影響を意志の選択によって受け入れたのち、強い依存性により形成される性的行動様式」であるといふ結論に触れた議論もあまり見なかつた。従来、「同性愛は遺伝的なものであるから変へられず、本人には責任が無い」と主張して来た活動家たちへの反論となり得たと思ふのだが。

一方で、動物行動学者の竹内久美子は二〇〇四年のイタリア人研究者キアーニらの理論に基づいて今なほ「遺伝子」の存在を言ふが、右の論文では「抽象的理論に過ぎない」と退けられてゐる。

勿論、医学・生物学上の問題について蝶々する資格は小欄には無いが、既存の法律や医学的知見を無視した立法は腹立たしく、この杜撰さは、数年前から法案を準備してゐたはずの自民党が一夜にして、たいして選ぶところの無い維新・国民案を丸呑みしたことに良く表れてゐる。(令和五年七月号)

吉田好克

吉田好克について 吉田好克は、神道・宗教・日本思想・歴史・政治・社会について、長年にわたり研究・教育・執筆を続ける論者です。 その関心の中心にあるのは、個々の時事問題そのものではありません。 日本とは何か。 日本人はいかに生きるべきか。 歴史や伝統を、現代にどう受け継いでいくのか。 そうした根源的な問いを、宗教、思想、歴史、社会のさまざまな角度から考え続けています。 論考では、福田恆存、江藤淳をはじめとする先人の思想や、国内外の文献を幅広く参照しながら、現代社会で当然のように語られている価値観や言説を改めて問い直します。 その姿勢は、特定のイデオロギーから現実を説明するのではなく、歴史、伝統、人間の営みという現実から、思想や制度を見つめ直すことにあります。 連続論考「蟷螂の斧」では、外国人労働者問題、戦後日本とキリスト教、原爆忌と平和思想、安全保障、靖国神社、保守思想、政治家論など、現代日本が直面する問題を幅広く取り上げています。 「蟷螂の斧」という名の通り、たとえ小さな力であっても、疑問を抱いた問題には自らの言葉で向き合う。 その文章には一貫して、日本の歴史と文化を次代へどうつなぐのかという問題意識があります。 本サイト「吉田好克.jp」では、「蟷螂の斧」をはじめ、これまでに執筆された論文、評論、寄稿、講義資料などを整理し、吉田好克の知的成果をデジタルアーカイブとして公開していきます。

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