梓弓

第26回 またもや失政の岸田政権

本年六月、岸田内閣は出入国管理法の改正を閣議決定した。

これまで、不法滞在者が上限無しの難民申請を繰り返してゐる間は送還されなかつたが、それを二回までとし、三回目の申請については「相当の理由」が無ければ認めず、送還できることになつた。この点は改善と言へるが、特例事項は不要だつたのではなからうか。申請者の中に「難民はほとんどいない」(一昨年四月、「難民を助ける会」柳瀬房子会長の衆院法務委員会での答弁)からである。

しかし、一方で、「特定技能二号」の対象業務区分を拡大した。ビルクリーニングや自動車整備などは特定技能の具体性が思ひ浮かぶが、「宿泊」とは何のことか。技能と言ふからには、たぶん観光ホテルなどに配置する通訳のことかと想像するが、それにしても「宿泊」とは。この語の不適切について誰も指摘しなかつたのだらうか。さらには、農業、漁業、外食業とあるが、安価な労働力の獲得として批判の多かつたこれまでの「技能実習制度」とどこが違ふのか。「ザル法」とでも言ふしかない。

そして、二号には在留期限が無く、家族の帯同が可能なのだから、これは移民政策に大きく舵を切つたことになる。その裏には「外国人と共生する社会」は必須であるとする安倍、菅、岸田の歴代首相に共通の考へがあるのだが、移民政策が成功した国は皆無であるといふ冷厳な事実を我々は直視するべきだ。

往時、西ドイツ、フランス、イギリスの失敗があり(ドイツは最近もシリア難民を受け入れて失敗した)、最近ではカナダ、オーストラリア、ニュージーランド、スウェーデンなどが移民、特に中国人を受け入れた後の対応に非常に苦労してゐる。周知の通り、中国人は移民先の文化を尊重することが極めて少ないからである。既に我が国でも東京近郊では「チャイナ団地」が形成されて、地元住民との軋轢が指摘されてゐる。最近では大分県日出(ひじ)町でムスリムの土葬用の土地の売買があり問題化してゐるし、川口市ではクルド人の横暴に手を焼いてゐるといふ現実がある。

右のやうな状況が続けば、諸外国と同様に、治安の悪化と文化破壊を招くであらうことは十分予測可能だ。その時、政府はどうするつもりであらうか。

福井義高によれば、抑々「移民推進は自国民の経済成長にはほとんど影響しない、むしろ全体としてはマイナスの可能性が高い」(『月刊正論』七月号)のだから、政府は経済・産業界の安易な要求に応へるのではなく、「生産性を向上させるための財政支援や大規模なインフラ投資」(中野剛志、同前)を行ふべきなのである。(令和五年九月号)

吉田好克

吉田好克について 吉田好克は、神道・宗教・日本思想・歴史・政治・社会について、長年にわたり研究・教育・執筆を続ける論者です。 その関心の中心にあるのは、個々の時事問題そのものではありません。 日本とは何か。 日本人はいかに生きるべきか。 歴史や伝統を、現代にどう受け継いでいくのか。 そうした根源的な問いを、宗教、思想、歴史、社会のさまざまな角度から考え続けています。 論考では、福田恆存、江藤淳をはじめとする先人の思想や、国内外の文献を幅広く参照しながら、現代社会で当然のように語られている価値観や言説を改めて問い直します。 その姿勢は、特定のイデオロギーから現実を説明するのではなく、歴史、伝統、人間の営みという現実から、思想や制度を見つめ直すことにあります。 連続論考「蟷螂の斧」では、外国人労働者問題、戦後日本とキリスト教、原爆忌と平和思想、安全保障、靖国神社、保守思想、政治家論など、現代日本が直面する問題を幅広く取り上げています。 「蟷螂の斧」という名の通り、たとえ小さな力であっても、疑問を抱いた問題には自らの言葉で向き合う。 その文章には一貫して、日本の歴史と文化を次代へどうつなぐのかという問題意識があります。 本サイト「吉田好克.jp」では、「蟷螂の斧」をはじめ、これまでに執筆された論文、評論、寄稿、講義資料などを整理し、吉田好克の知的成果をデジタルアーカイブとして公開していきます。

この論考は役に立ちましたか?

参考になりましたら、下のボタンで教えてください。

関連論考

新着論考
会員限定
おすすめ
PAGE TOP
ログイン 会員登録
会員登録