梓弓

第17回 かはいさうな安倍元首相

安倍晋三元首相の国葬儀が無事に挙行されたことは喜ばしいが、そこに至るまでのマスコミと政界の不見識は以下の如く凡そ信じられないものだつた。

①安倍氏の治療に当たつた医師の説明と奈良県警の発表では「死因」が全く異なるのに、岸田首相もマスコミも問題にしなかつた。②犯人の口から旧統一教会(以下、教会)の名が出ると、安倍氏や自民党議員と教会の関係が執拗に報道される一方で、公明党と創価学会の関係は不問に付された。③教会の問題では自民党が慌てふためいて党所属の国会議員に教会との関係の「点検」を要請。④この結果を「自己申告」に過ぎないと立民党の安住淳が批判するも、マスコミは岡田克也など立民党所属議員についてはこれまた不問に付した。⑤安倍氏がビデオメッセージを送つた天宙平和連合が国連に承認されたNGOであることも、安倍氏が潘基文元国連事務総長からメッセージを依頼された各国要人の一人に過ぎないこともマスコミは隠蔽し、安倍氏が教会の広告塔であるかのやうな印象操作を行つた。⑥安倍内閣が消費者裁判手続特例法や改正消費者契約法で、霊感商法による契約の取り消しを可能にした功績にマスコミは触れなかつた。⑦宗教法人格を有する教会を差別するといふ恐るべき憲法違反を政界もマスコミも犯した。

以上のやうな経過を辿つた結果、犯人に同情する言説が飛び交ひ、軽薄な減刑嘆願署名が行はれた一方で、世界が高く評価する安倍氏の功績を知らぬ一部の大衆がマスコミに洗脳され、氏の国葬に反対する世論が形成された。

左翼連中が「法的根拠が無い」として国葬反対を唱へたが、各地方裁判所が次々に却下したやうに、法的根拠はあつた(内閣府設置法第四条三項)。

一方、岸田内閣の無策と惰弱も目立つた。教会との関係を訊かれたら、「何か問題でも?」と最初に反問すれば良かつたにも拘はらず、茂木幹事長が前記の卑屈な処置を行つたばかりに、政権は要らぬ火の粉を全身に浴びることになつた。

また、国葬儀についても同様だ。「国葬」と言ふからには国民が喪に服さなければ意味が無い。国民揃つての黙禱の時間も設けず、どこが「国葬」なのか。「弔意の強制」だと言はれたら、「ならば国民祝日は祝意を強制してゐるのか」と言ひ返せば良い。岸田政府の弱腰には目を覆ひたくなる。改憲や拉致の問題でも、安倍氏と真剣に協働しようとする自民党代議士は少なかつた。不世出の政治家、安倍晋三の孤独がかはいさうでならない。が、炎天下に献花のために並んだ二万五千超の人々と全国で追悼した心ある人々の弔意は安倍氏の霊に届いたであらうと信ずる。(令和四年十月号)

吉田好克

吉田好克について 吉田好克は、神道・宗教・日本思想・歴史・政治・社会について、長年にわたり研究・教育・執筆を続ける論者です。 その関心の中心にあるのは、個々の時事問題そのものではありません。 日本とは何か。 日本人はいかに生きるべきか。 歴史や伝統を、現代にどう受け継いでいくのか。 そうした根源的な問いを、宗教、思想、歴史、社会のさまざまな角度から考え続けています。 論考では、福田恆存、江藤淳をはじめとする先人の思想や、国内外の文献を幅広く参照しながら、現代社会で当然のように語られている価値観や言説を改めて問い直します。 その姿勢は、特定のイデオロギーから現実を説明するのではなく、歴史、伝統、人間の営みという現実から、思想や制度を見つめ直すことにあります。 連続論考「蟷螂の斧」では、外国人労働者問題、戦後日本とキリスト教、原爆忌と平和思想、安全保障、靖国神社、保守思想、政治家論など、現代日本が直面する問題を幅広く取り上げています。 「蟷螂の斧」という名の通り、たとえ小さな力であっても、疑問を抱いた問題には自らの言葉で向き合う。 その文章には一貫して、日本の歴史と文化を次代へどうつなぐのかという問題意識があります。 本サイト「吉田好克.jp」では、「蟷螂の斧」をはじめ、これまでに執筆された論文、評論、寄稿、講義資料などを整理し、吉田好克の知的成果をデジタルアーカイブとして公開していきます。

この論考は役に立ちましたか?

参考になりましたら、下のボタンで教えてください。

関連論考

新着論考
会員限定
おすすめ
PAGE TOP
ログイン 会員登録
会員登録