福島第一原発の「処理水」をめぐり、中国が難癖をつけて日本の海産物を禁輸した事態に対して、岸田首相は「中国は突出した行動を取つてゐる」とか、アジアサミットでは名指しもせずに「一部の国」とか、弱腰の言葉に終始した。関係者の苦労を労ふ心も、国益を護り抜くといふ気概も全く感じられなかつた。
それに、「産経」によれば(八月二十五日)、福島原発が放出するトリチウム処理水は国が定めた濃度基準の四十分の一である。今年度のトリチウム総量は五兆㏃(ベクレル)、次年度からの年間排出予定量は最大二十二兆㏃としてをり、中国は一昨年その十倍の二百十八兆㏃を放出してゐるのである。韓国を含む他の国々も軒並み日本より大量に放出してゐて、フランスに至つては一京㏃だ。
従つて、岸田としてはこの数字を国の内外に喧伝して、「どの口が言ふか」といふ意味の批判を中国に対してするべきだつた。
内閣を改造しても一向に支持率が上がらない岸田の不人気の理由の一つは、このやうな外に向かつては低頭・叩頭外交、そして内に向かつては仰々しい言葉を振り翳す内弁慶ぶりにあるのではないか。「異次元の」がその典型であり、拉致問題についても「一瞬たりとも無駄にせず」とか「政府を挙げて全力で」とかの発言をしてゐるが、拉致専門の大臣を置かずに「棒読み」官房長官松野博一に兼務させ、ブルーリボンさへ着用せぬ閣僚が複数ゐるといふ具合で、鼻白むしかない。一方で、バイデンに使嗾されてLGBT法案のごとき不要な悪法を無理遣りに成立させた。
その結果、所謂「岩盤保守層」が自民党離れを起こすのは当然であり、小欄も同様だ。だが、それは必ずしも手放しで喜べる話ではない。A・トインビーによれば、国民が指導者から離反すると国や社会が調和と自己決定能力を失ひ、国家は衰退するからである(「歴史の研究」四・四、『世界の名著』61)。
参政党が勢力を広げ、近々「日本保守党」も旗揚げする。小党が乱立すれば「自己決定能力」の衰弱を招くかも知れず、それにどんな新党にも時流に掉さすだけの「偽者」が必ず入り込む。さうなると、我が国の分断と混迷は益々深まる可能性がある。勿論、保守的な政治理念を持つ右の二党の躍進を期待するが、大マスコミは好意的に扱はないだらうから、一般の国民への浸透はさう簡単ではないと思はれる。
ともあれ、今日の政治的混迷は一義的には岸田以下、今の自民党政治の責任だが、選挙民たる我々国民にも相応の責任がある。長い間、自民党の無気力とそれゆゑの無能を許して来たのだから。(令和五年十月号)














