鱓(ごまめ)の歯ぎしり

令和三年「腹立ち三題噺」――対中非難決議不採決、非科学的な専門家たち、眞子さんの結婚

昨年に続いて表題のテーマを与へられたが、三つに絞るのは今年もまた難しい。

夫婦別氏制度やLGBT理解法案などに見られる自民党の左傾化、アフガニスタン撤退問題における外務省の無様、本来可でも不可でもない「多様性」の恣意的解釈の流行などに腹が立つた。また、衆院選においても、二枚舌の無責任男細野豪志が当選し、その後自民党に入党したこと、そして、それを無理矢理押し通した二階俊博もまた当選したことが腹立たしくない訳が無い。その他、百害あつて一利無しと言ふべき面々も大勢当選した一方で、大阪で長尾敬、和歌山で本間奈々が落選した。

民主主義の宿痾である「ポピュリズム」は政治家と選挙民との持ちつ持たれつの関係があつてのことだから、民主主義とは実に厄介なものだと嘆息するほかは無い。

さて、改めて今年を振り返れば、副題に挙げた三つは取り上げないわけにはゆかない。

通常国会で「対中非難決議」が採決されなかつた。世界に対して恥づかしいこの結果は自民党の林幹雄の横槍と公明党の優柔不断がもたらしたものだ。詳細は長尾敬の告発記事(『正論』八月号)に譲るが、協議の終はりに「僕はこういうの〔ウイグルでの人権問題〕はあんまり興味がないんだよね」と言ひ放つた林は赦し難い。自民党もいつまで親中の公明党と連立を組むのか。そんなことを続けてゐて、党是の「自主憲法制定」なんぞできる訳がない。それに、岸田首相が指名した新外務大臣は何と親中派として名高い林芳正だつた。こんなことで、北京冬季五輪をボイコットできるのか。「外交的」ボイコットすら難しいのではないか。さらにまた、岸田内閣は「移民政策」に乗り出し、早くも見識の無さを露呈し始めた。

次に腹が立つたのは、武漢コロナやSDGSに関して所謂「専門家」たちの非科学性である。コロナに関して言へば、昨年一月に武漢で死者が確認された後も「これ以上広がる可能性は低い」と言つたのは国立国際医療センター感染対策室長の忽那賢志だつた。支那人への入国拒否が遅れたのはこの発言が影響したのではないか。その後の展開は読者も承知であらう。「八割おじさん」も登場した。尾身茂を長とする政府の対策分科会も迷走に次ぐ迷走を続けた。彼らが提言した緊急事態宣言や他の対策も、科学的根拠が希薄な場当たり的なものだつたと言はざるを得ない。万一の事態に備へた責任逃れでもあつたのだらう。

一番疑問に思つたのは、基準値や精度も曖昧なPCR検査の「陽性者」の数ばかり論つたことだ。陽性者でも多くは発症せず、必ずしも感染源とならなかつた。また、経路の説明にもかなり初期から異論が出てゐたし、抑々、この病を感染症法の第二類(結核やSARSに相当)に指定したことも非科学的ではなかつたか。致死率がまるで違ひ、本当に「さざ波」(高橋洋一)だつたのだから季節性インフルエンザと同等の第五類にすれば、保健所や病院の混乱は避けられたはずだ。流行当初はともかく、「新しいタイプの風邪ウイルス」(木村盛世)であることが判明した後も二類のままである。ワクチン接種についても、臨床試験の期間が短か

過ぎて心配だといふ疑問にはほとんど答へてゐなかつたやうに思はれる。

このやうな分科会に対して、保守系月刊誌やネット番組などでは専門家たちが異を唱へてゐたのだが、左翼マスメディアは無視し、分科会も反論しようとはしなかつた。氷川貴之が「分科会のメンバーは左翼ばかり」といふ官邸関係者の言を引用してゐるので(『Hanada』十月号)調べてみると、分科会の十六名のうち、少なくとも四名が日本学術会議の会員または連携会員であり、沈黙が妙に納得できるのである。左翼は都合が悪いと反論しないものだ。

掛谷英紀によれば、特に研究分野が狭い科学者ほど自らの保身や所属学会のために嘘を吐く傾向があるらしい(杉山大志編著『SDGSの不都合な真実』宝島社)。日本人科学者であれ外国人科学者であれ、間違ひもあれば嘘も吐く、或いは信奉するイデオロギーに忠義立てすることがあるといふことを我々は認識しておく必要がある。

最近はこれ無かりせば夜も日も明けぬといつたSDGSも同様である。資源の分野では特に地球温暖化と二酸化炭素が議論されてゐるが、抑々この二つに因果関係があるかどうか異論が出てゐる。勿論私にその正否の判断はできないが、地球温暖化そのものには疑問を持つてゐる。例へば杉山大志は「台風は増えても強くなってもいない」と言ひ、「猛暑は都市熱や自然変動によるもので、温暖化のせいではない」とし、気温が上昇したといつても「江戸時代と比べて0・8℃に過ぎない。過去三十年間辺りならば0・2℃と僅かで、感じることすら不可能だ」と言ふ(『アインデンティティ』六月一日号)。そして、それらのことは「公開されている統計で確認できる」と言ふから調べて見れば、実際その通りなのである(例へば、近藤純正東北大学名誉教授のHPなど)。

SDGSは国連発祥の世界的キャンペーンだが、かやうに科学的裏付けが怪しい事象がまぎれ込んでゐるやうに見える(「キャンペーンならみんな眉唾」だと、山本夏彦が生きてゐれば言ふところだ『かいつまんで言う』中公文庫)。国連が各国の権謀術策が激しく渦巻く組織であることを我々は忘れてはならない。かういふ時、「世界に乗り遅れるな」などと言ふ輩が必ずゐるが、それを言ふなら我が国が世界標準から最も遠いのは「国防意識」ではないか。ともあれ、杉山の言ふ通りで、「エネルギー供給源を多様化」しつつ、CCS(二酸化炭素回収・貯留)などを日本の技術でさらに開発し、世界に貢献するべきだ。エネルギー問題は「原発もダメ、石炭もダメ」では済まないのである(代議士やら首長やらがSDGSバッヂを好んで付けてゐるが、そんな暇があつたらブルーリボンバッヂを付けよと言ひたい)。

最後に秋篠宮家長女眞子さんの結婚について。これは腹立たしいと言ふより残念至極である。結婚直前の記者会見で小室圭が読み上げた文章は「文は人なり」であつて、自己主張はあつても日本人らしい恭謙卑遜が無い。何より、天皇皇后両陛下や秋篠宮皇嗣同妃両殿下へのお詫びの言葉が無く、これには驚いた。インターナショナルスクールやⅠCUの教育を受けるとあのやうになるのだらうか。結婚後に急転直下、母親の元婚約者に全額を返金したことも非常に胡乱で、当然様々な憶測を呼ぶ行為だ。

ともあれ、これを機に皇室が軽んじられるやうになることが一番懸念される。眞子さんは「応援してくださった方々」に感謝してゐるが、その多くは皇室の衰亡を喜ぶか、ふだんは皇室に何の興味も持たない連中であつたはずだ。皇室を敬慕すればこその忠諌や心配まで「誹謗中傷」の一言で片づけられては、それらを公表した識者や私のやうな尊皇派は立つ瀬が無い。聖上が小室には引見なさらなかつたことがすべてを物語つてゐる。苦渋のご判断だらうが、さすがのご見識と思ふ。

眞子さんがもしも好んで皇室に生まれたのではないと思つてゐるとしたら、我々もまた好んで日本人として生まれたのではないと申し上げるしかない。ただ、これまで皇族の一員として数々の功績もあつたはずだから、相手が相手なので心からの祝意は表せないが、眞子さんに幸多かれと祈ることにする。(一部を除いて敬称略)(令和三年十二月号)

吉田好克

吉田好克について 吉田好克は、神道・宗教・日本思想・歴史・政治・社会について、長年にわたり研究・教育・執筆を続ける論者です。 その関心の中心にあるのは、個々の時事問題そのものではありません。 日本とは何か。 日本人はいかに生きるべきか。 歴史や伝統を、現代にどう受け継いでいくのか。 そうした根源的な問いを、宗教、思想、歴史、社会のさまざまな角度から考え続けています。 論考では、福田恆存、江藤淳をはじめとする先人の思想や、国内外の文献を幅広く参照しながら、現代社会で当然のように語られている価値観や言説を改めて問い直します。 その姿勢は、特定のイデオロギーから現実を説明するのではなく、歴史、伝統、人間の営みという現実から、思想や制度を見つめ直すことにあります。 連続論考「蟷螂の斧」では、外国人労働者問題、戦後日本とキリスト教、原爆忌と平和思想、安全保障、靖国神社、保守思想、政治家論など、現代日本が直面する問題を幅広く取り上げています。 「蟷螂の斧」という名の通り、たとえ小さな力であっても、疑問を抱いた問題には自らの言葉で向き合う。 その文章には一貫して、日本の歴史と文化を次代へどうつなぐのかという問題意識があります。 本サイト「吉田好克.jp」では、「蟷螂の斧」をはじめ、これまでに執筆された論文、評論、寄稿、講義資料などを整理し、吉田好克の知的成果をデジタルアーカイブとして公開していきます。

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